広島高等裁判所松江支部 昭和25年(う)27号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(理由)
原審公判調書によれば原審公判判廷において原審裁判官と被告人とのあいだに、論旨摘録の如き質問及び供述がなされたことは所論の通りであつて原審裁判官が被告人に對し發した「孫太郞虫本舖から六月に解雇通知を出した位だからその樣な事は出來ん事だと判らなかつたか」との質問が所論の如く誘導質問であることは右の質問者の期待する答を暗示していることに徴し明らかである。しかし誘導質問に對してなされた被告人の供述が常に任意性を缺くものであるとは言えないのであつて、任意性を缺いているか否かはその供述のなされた當時の状況から具體的に判定すべきものであるところ、原審裁判官が所論の如き誘導質問をするに當り特に被告人の意思を壓迫するが如き手段方法をとつたことを疑わせるような資料はないのみならず、原審公判調書によれば本件被告人は公開の法廷で辯護人立會のもとに供述拒否權の告知を受けた上、原審裁判官の質問に對し供述したものであつて、しかも辯護人又は被告人は原審裁判官の前記誘導質問に對し何等の異議をも申立てていないのであるから、被告人が右の質問に答えてなした「出來ん事は判つて居りました」との供述は被告人の自由意思を以つてその供述の性質と結果を充分に認識して發言したものと認めるを相當とする。されば被告人の右供述は所論の如く任意性に缺けたものとはいえないから、原判決が本件詐欺の犯意を認定であつて、所論の如く訴訟手續に判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることは言えない。論旨は理由がない。